スマート農業革命:ドローン(空×地上)とAIが変えるアスパラ栽培

はじめに:農業にやってきた“新しい仲間”
農業といえば、土を耕し、太陽の下で作物と向き合う「地に足のついた仕事」というイメージが強いかもしれません。
しかし今、農業の現場では「空を飛ぶ仲間」だけでなく、「地上を走る仲間」や「固定された目」まで登場し、AIと組み合わさって大きな変革をもたらしています。
ここでいうドローンとは、狭義の“無人航空機”に限らず、空を飛ぶドローン、畝間を走る地上走行ロボット(UGV)、固定カメラといった無人移動ロボット全般(広義のドローン)を指します。
これらのドローン+AI技術は、農家の代わりに畑を観察し、得られたデータを解析して作物の状態を可視化します。
「人手不足」や「高齢化」といった農業が抱える深刻な課題に対して、まさに心強い相棒となっているのです。
そして、その動きはアスパラガス農家の現場にも広がり始めています。
農業が抱える3つの課題
まず、ドローン+AIが注目される背景を見ていきましょう。
日本の農業は今、以下の3つの大きな課題に直面しています。
- 人手不足と高齢化の加速
農業就業人口の約7割が65歳以上(2020年時点)。毎日畑を見回るのが難しくなっています。 - 圃場の大規模化
企業参入や法人化の流れで、1人あたりの管理面積が増加。「異常の見逃し」や「管理の粗さ」が収量低下につながっています。 - 経験と勘への依存
作物の健康状態や育成の見極めには長年の経験が必要ですが、それを数値で残したり他人に引き継ぐのは難しいのが現実です。
これらの問題を解決するのが、ドローン+AIによる新しい農業管理のかたちです。
ドローンとAIで「畑の見える化」
ドローンは空や地上から圃場を撮影し、その情報をAIが解析することで作物の状態を「色」や「数値」で“見える化”します。
マルチスペクトルセンサーとは?— 生育ムラ・水不足・病害サインの可視化
重要な役割を果たすのがマルチスペクトルセンサー。
人間の目には見えない赤外線などを捉え、作物が健康かどうか、水不足か、病気の兆候があるかといった“目に見えないサイン”を可視化します。
例えば、元気な葉は赤外線をよく反射し、弱った葉はあまり反射しません。この微細な違いをセンサーが捉えることで、農家は異常を早期発見し、適切に対応できるのです。
露地は稼働期間が短い=専用機の単独運用はコスト効率に課題(一般的見立て)
AIはデータを組み合わせ、「このエリアは生育が遅れている」「病害の可能性がある」といった判断を支援してくれます。
なお、露地での運用は利用可能な期間が相対的に短いため、専用機(自前保有)による単独運用は稼働率の観点からコスト効率に課題がある、というのが一般的な見立てです。
アスパラガス農家にとってのメリットとは?
AI解析で何が分かる?— 生育遅延エリア・病害リスク・潅水/施肥の偏り
ドローン+AIは、特に管理が複雑なアスパラガスで大きな効果を発揮します。
アスパラは多年性作物で、春芽・夏芽で生育パターンが異なり、「いつ立茎するか」「どのタイミングで収穫するか」が成果に直結します。
定期的な空撮や地上ロボットによる観察、AI解析を組み合わせれば:
- 春芽の立茎開始の見極め
- 夏芽の立茎本数(密度)の調整
- 病気の早期発見
- 水不足や施肥の偏りの把握
といった、従来「経験と勘」で行っていた判断をデータで裏づけることが可能になります。
施設(高畝・平畝)では空中ドローンは非効率になりがち—UGV・固定カメラが主流
ただし、アスパラの施設栽培(高畝・平畝を問わず)では、支柱やネット、潅水設備が張り巡らされ、作物自体も背が高いため、上空を飛ぶ狭義のドローン(無人航空機)が有効な画像を得るのは困難です。
海外では、フランスなど大規模で天井が高いハウスで小型ドローンを飛ばす実証例がありますが、条件が整った一部の施設に限られます。
国内の一般的な施設ではむしろ、UGV(地上走行ロボット)や固定カメラ+AI解析が主流であり、アスパラ栽培との親和性も高いのです。
海外・国内での活用事例
海外(米国・欧州):病害検出率90%超などの実証結果
- 米国:病害検出率90%超
NACAAの報告では、ドローンとAIを導入することで
- 病害検出成功率が90%以上
- 見回り作業時間が1/5以下
- 施肥・潅水ミスの減少によるコスト削減
といった成果が得られています。
- 病害検出成功率が90%以上
- 日本国内:導入支援の広がり
長野県や北海道を中心に実証が進み、生育マップを作成して農家を支援。JAや自治体が導入を後押しする事例も見られます。
気になる導入コストとその解決策
“買わずに使う”選択肢(シェア・サブスク・スポット計測)
ドローン+AIの導入には数十万〜数百万円の費用がかかる場合もあり、小規模農家には負担が大きいのが実情です。
ただし以下のような仕組みで負担軽減が進んでいます:
- 農林水産省の「スマート農業実証事業」で補助
- 農業法人による共同利用(シェア導入)
- 民間企業による計測サービス(利用課金制)
“買わずに使う”方法が広がり、参入障壁は下がりつつあります。
成功のコツ:AIは意思決定を支える「補助ツール」
AIは大量のデータを高速処理する点で優れていますが、最終判断は農家が行います。
つまり、ドローンやAIは“農家の目を補う道具”であり、“農家の代わり”ではありません。経験とデータが合わさることで、より精度の高い意思決定が可能になります。
まとめ:空と地上、固定視点で進むアスパラDX
農業の現場にドローンが飛ぶ、あるいは畝間をロボットが走る光景は、もはやSFではありません。
むしろ「空から」「地上から」「固定された視点から」畑を見守ることは、これからの農業の当たり前になりつつあります。
特にアスパラガスのように「タイミング」と「品質」が成果を大きく左右する作物では、広義のドローン(空中ドローン・UGV・固定カメラ)とAIは心強い味方です。
高齢化・人手不足・気候変動という課題を乗り越えるために、こうしたテクノロジーはますます必要とされていくでしょう。
そして今、空と地上の両方から、未来の農業が始まっています。