— 産直ECとBtoBマッチングでアスパラガス販路を設計する —

目次
1. まず押さえるべき「既存ルートの事実」
- 多段階流通
日本の青果物流通は、「生産者 → 集出荷団体 → 卸売市場(卸) → 仲卸 → 小売」という多段階構造が一般的であり、決済条件も市場の業務規程によって定められています。
たとえば、東京の青果部では卸への支払条件が「3日目払い」とされています。仲卸による回収については、大規模小売では23日後、一般小売では16日後といった支払サイトが確認されており、農林水産省の資料で整理されています。(農林水産省)
- 流通経費の割合(調査16品目平均)
小売価格に占める流通経費は51.5%。内訳は、集出荷団体15.0%、卸売経費(手数料)5.2%、仲卸11.5%、小売19.9%(試算値)。品目・地域で異なるため、あくまで当該調査範囲の値です。 (農林水産省, 農林水産省) - 卸の委託手数料率は市場ごとに設定
例:川崎市中央卸売市場北部市場(青果部)
野菜8.5%、果実7.0%と公表。 (川崎市公式サイト)
2. アスパラガスの品温・水分管理(出荷前に決める標準)
- 高呼吸・水分喪失への配慮が必須:低温での予冷・高湿度管理、適切な包装(MA/CA含む)で劣化を抑制できます。 (農林水産省, アグリノウリッジ)
- 切断面保護の効果:基部を蜜蝋や熱収縮フィルムで保護すると、5℃で1日あたり約0.5~1%の重量減少抑制が報告されています。段ボール輸送で発泡スチロール輸送と同等効果が得られた試験結果も公開されています。 (pref.nagasaki.jp, アグリノウリッジ, CiNii)
- 姿勢・温度の影響:貯蔵温度や立て・寝かせ姿勢が外観・糖度・水分含量・破断応力に影響。基部硬化が出やすい条件では切断面保護が有効とされています。 (J-STAGE)
現場設定に使えるポイント
予冷(0–5℃目安)→高湿度維持→切断面保護→適正包材(必要に応じMA/エチレン対策)→低温物流。各段階で温度逸脱を避けることが重要です。根拠は上掲資料を参照してください。 (農林水産省, pref.nagasaki.jp)
3. 産直EC:料金・規模・支払の“見える化”
- 食べチョク(生産者向け手数料):商品代の19.7%(送料を除く商品代に対して算定)。固定費・決済手数料は徴収しない運用を公表。 (プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES)
- ポケットマルシェ:手数料23%(2024年4月1日以降の注文)。 (ポケットマルシェ)
- 食べチョクの規模:ユーザー数100万人・登録生産者1万軒超(2024年〜2025年の公表)。 (プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES, プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES, プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES, ネット経済新聞, コマースピック, 農林水産省, 電通報)
使い分けの要点
- ECは価格設定を自ら行える形が一般的(プラットフォームは売買当事者でない形態が原則)。補償やトラブル対応は各社規約に従います。 (アグリノウリッジ, J-STAGE, 王子グループ 機能材カンパニーポータル)
- 手数料率・送料・資材費・返品規約まで含めた実収益の試算が必須です。各社公表条件に基づき計算してください。 (プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES, ポケットマルシェ)
4. BtoBマッチング:支払サイトの標準化と回収リスク低減
- 食べチョクPro(飲食店向け):月末締・翌月末払い、銀行振込、固定費なしと明示。コンシェルジュ型で要件に応じて生産者を提案。 (食べチョクPro, プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES)
- インフォマート(BtoBプラットフォーム):商談から受発注、債権回収代行・一括払いなど決済・回収を標準化する機能を提供。 (infomart.co.jp)
厨房向けの利点(確認できる事実)
取引仕様をオンラインで明確化し、与信・回収や支払サイトを仕組み化できる点が特徴です。規格や温度条件、到着時の検収条件を合意しやすくなります。 (infomart.co.jp, 食べチョクPro)
5. 共同選果・予冷など既存インフラの活用
- 福島県会津地区では、生産者数減少や流通コスト抑制のニーズに応じ、JA会津みなみ・あいづ・会津いいで・会津みどりの4JAが、全農福島県本部と連携して「会津野菜館」という共同選果施設を整備し、2020年春から稼働しています。この施設は広域のアスパラガス、きゅうり、チェリートマトの選果・予冷・出荷を一元化し、流通コスト削減と業務効率化を図っています 。
(全農+6vegetable.alic.go.jp+6nochuri.co.jp+6)
(aizuyotuba.jp+14福島県ホームページ+14zennoh-weekly.jp+14)
6. 通年化オプション:IQF・瓶詰・輸出
- IQF(個別急速冷凍):国産アスパラのIQFカット/ロングが業務用で流通実例。規格・内容量が公開されています。
- 瓶詰ピクルス:北海道産原料の製品で、常温・賞味期限3年の仕様が公開されています。(製造者公表情報) (クレイドル高能, 北海道新聞デジタル)
- 海上リーファー/CA・資材:CA(低酸素)やエチレン対策資材、Super Cooling Premium搭載リーファーなど具体事例が公表。海上10日程度を想定した試験条件(香港想定)も手引きに掲載。 (農林水産省, 農林水産省, farc.pref.fukuoka.jp)
- 航空クール網:MAFF手引きで、工程と所要時間の具体例が示されています。 (農林水産省, 農林水産省)
7. 直近の運賃改定(コスト前提)
- 2024年4月1日改定:宅急便の届出運賃・料金を改定。クール付加料金は60サイズ275円、80サイズ330円、100サイズ440円、120サイズ715円に。改定差額も公表(例:80サイズ +110円)。 (クロネコヤマト, ヤマトホールディングス)
- 2025年10月1日改定予定:宅急便の届出運賃を再改定。例:140サイズ 2,190円→2,630円(+440円)。詳細は運賃表PDF参照。 (ヤマトホールディングス, ヤマトホールディングス)
8. 需要側の基調(販促設計の前提)
- 消費者の主要志向は経済性・健康・簡便化が並走。直近(令和7年1月調査)でも3大志向を維持。 (日本フードサービス協会, 日本フードサービス協会)
- 食品表示への関心は継続し、令和6年度調査報告書が公表済み。販促物・ECページでの表示適正化は必須です。 (内閣府, 内閣府)
実務チェックリスト
A. 出荷前(鮮度・梱包)
- 予冷温度・時間、庫内湿度、包装仕様(穴あき/高透湿/MA、エチレン対策)を記録。切断面保護(蜜蝋/熱収縮)を採用するか決定。 (農林水産省, pref.nagasaki.jp)
- 物流モード別の温度維持計画(宅配クール/リーファー/航空)。温度逸脱時の措置を事前合意。 (クロネコヤマト, 農林水産省)
B. チャネル別の採算表
- 卸・市場:委託手数料率(市場・業者別)と支払期日。集出荷団体・仲卸・小売の経費構成をMAFF調査値の範囲で参照。 (川崎市公式サイト, 農林水産省, 農林水産省)
- 産直EC:手数料率(食べチョク19.7%、ポケマル23%)、送料、資材費、返品条件を反映。 (プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES, ポケットマルシェ)
- BtoB:食べチョクProの月末締・翌月末払い、インフォマートの回収代行・一括払いを条件に与信とキャッシュフローを設計。 (食べチョクPro, infomart.co.jp)
C. 通年供給の在庫設計
- IQF製品の規格・歩留まり、瓶詰(常温・賞味3年)のSKU構成を決定。生鮮と加工の売上配分を期首に決めておく。 (クレイドル高能)
D. 輸出準備
- 海上:目的地別の日数・温度・ガス条件(CA/MA)と資材を設定。10日想定試験の条件を参考に事前トライアルを行う。 (農林水産省, farc.pref.fukuoka.jp)
- 航空:出荷→集荷→通関→到着→配達のタイムテーブルを作り、温度記録計を付ける。 (農林水産省)
E. コスト改定への備え
- 2025年10月以降の宅急便運賃改定(120~200サイズ中心)を反映し、送料設定と同梱設計を見直す。 (ヤマトホールディングス, ヤマトホールディングス)