アスパラガスは、一度植えると10年以上収穫できる多年生(たねんせい)作物です。
毎年、春から夏にかけて芽を伸ばし、同じ株から新しい茎を何度も出して成長します。
収穫は「春芽(はるめ)」と「夏芽(なつめ)」の2期に分かれます。
秋以降も収穫が続く場合がありますが、それは“秋芽”ではなく、夏芽の終盤にあたります。
この記事では、高畝(たかうね)栽培に焦点をあて、春と夏の収穫時期、
そして10月中旬まで収穫を続けるための管理方法を紹介します。
春芽(はるめ)の収穫時期:3〜6月ごろ
春芽は、冬の間に根にためた養分を使って最初に出てくる芽です。
太くやわらかく、甘みが強いのが特徴です。
地域や栽培形態によりますがおおよその収穫時期は3月〜6月。
栽培品種にもよりますが、10℃以上で萌芽が始まり、15℃を超えると一斉に萌芽します。経過年数や前年の立茎の状態にもよりますが、萌芽開始から30日~45日間を目途に春芽の収穫を終了し、立茎作業を開始します。
🌱 高畝栽培では
畝を高く作ることで地温が上がりやすく、通常より1〜2週間早く萌芽・収穫が始まることもあります。
📘 参考:島根県「高畝栽培の収穫前進化技術」

夏芽(なつめ)の収穫時期:7〜10月中旬ごろ
春の収穫が終わると、アスパラは「立茎(りっけい)」といって一部の若茎を収穫せずに伸ばし、その茎や葉で光合成をして根にエネルギーをためながら、新しい芽(夏芽)を出します。
夏芽の収穫は7月から10月中旬ごろまで。
※地温や気温次第(ハウス管理次第)で変わります。
基本的に萌芽が終わるまで収穫します。
📚 出典:
- 長野県野菜花き試験場「枠板式高畝栽培の概要」
- JA全農長野『高畝・被覆資材による栽培技術指針』(2021)
- アグリポート「アスパラガスの高畝栽培 実証5年目の成果」(2022)
🌿 高畝栽培における潅水と環境管理
高畝栽培は、通気性と排水性が高い反面、乾燥しやすいという特徴があります。
そのため、根の周囲の水分と地温を一定に保つための潅水管理が非常に重要です。
特に、アスパラガスのように深根性の多年生作物では、
根域の水分変動が株の消耗や夏芽の品質に直結するため、少量多回の潅水が推奨されています。
💧 潅水方法と管理のポイント
現在、多くの高畝圃場では、灌水チューブを畝の中央または側面に設置し、
根の近くに直接水を供給する方式が採用されています。
この方法は、必要な範囲にのみ水を与えることができ、水利用効率が高く、葉面への水滴による病害も抑えられるのが利点です。
潅水の目安としては、熊本県や長野県の指針によると、
pF値1.5〜2.0程度を維持する少量多回潅水が効果的とされています。
特に夏芽期(6〜9月頃)は蒸散量が多く、乾燥による株疲労を防ぐため潅水頻度を高めます。
また、自動潅水タイマーや土壌水分センサーを用いることで、
地温・湿度を安定させつつ省力的な管理が可能になります。
福島県や福岡県の実証では、自動制御型潅水装置を導入することで萌芽のばらつきや規格外品が減少するなどの効果が確認されています。
☀️ 環境管理の考え方
高畝栽培では基本的にマルチ被覆を行わず、
畝表面を開放して通気・排水を確保することが多いです。
被覆が必要な場合でも、黒マルチではなく遮光ネットや簡易被覆フィルムなどで気温上昇や乾燥を調整します。
また、風通しを確保するために立茎後の支柱・フラワーネットの設置も重要です。
これにより蒸れを防ぎ、病害発生を抑えることができます。
💡 よく利用される資材例
- 灌水チューブ
- 自動潅水タイマー・pFセンサー・土壌水分センサー
- 遮光ネット(遮光率40〜60%程度)
- 立茎用支柱・フラワーネット
✅ まとめ
- 高畝栽培ではマルチ被覆を行わず、通気性・排水性を生かした乾燥対策が基本。
- 潅水は灌水チューブ+センサー管理でpF1.5〜2.0を維持。
- 夏芽期は特に水分供給を安定させ、株の疲労軽減と萌芽安定を図る。
- 環境制御には遮光ネット・換気・フラワーネットを活用。
夏芽期の管理スケジュール(7〜10月)
| 月 | 主な作業 | 管理のポイント |
| 6~7月 | 立茎・収穫・防除・追肥 | 蒸れを防ぎ、風通しを確保。過乾燥に注意。 |
| 8月 | 収穫・防除・追肥 | 株疲労を防ぐため収穫量を調整。潅水頻度を増やす。 |
| 9月 | 終盤の管理 | 夜温が下がるため、潅水と肥培を安定させる。 |
| 10月中旬~下旬 | 収穫終了 | 光合成で根に養分をためる期間。被覆で冷えを防ぐ。 |
補足:
- 島根(高畝栽培・二重被覆なし)の事例では、立茎開始は4月中旬頃から約60日で夏芽のピーク。
- 一方、一般的な露地・温暖地域では6月頃に立茎管理が中心となる。
収穫後の「株養成」と冬越し準備
10月中旬を過ぎたら、収穫を終えて株を休ませる期間に入ります。
立っている茎や葉を残し、光合成で根に養分を蓄えるのが目的です。
- 肥料もストップ、潅水量も減らして黄化を促進させる。
- 冠水しやすい場所では排水溝を整備する。
この時期の管理が、翌春の「太く勢いのある春芽」を育てます。
まとめ:高畝栽培は10月中旬までの収穫を可能にする技術体系
- 春芽の収穫:3〜6月
- 夏芽の収穫:7〜10月中旬
- 高畝栽培は、地温と水分を安定させる構造+潅水システムの組み合わせで長期収穫を実現
平畝では9月中旬に収穫が終わることが多いですが、
高畝+潅水を採用することで10月中旬までの安定収穫が可能です。
秋の終わりには無理に収穫を続けず、
株を養成し、翌春の生育につなげることが、持続的なアスパラ生産の基本です。🌿
出典:長野県野菜花き試験場、JA全農長野、アグリポート(2022)

