農業を始めたい――そう思ったとき、
まず土地やハウス、作物の品種を考える方が多いかもしれません。
しかし実際の現場で最初に直面するのは、「水はでるのか?」「どう引けばいいかわからない」という問題です。
どんなに良い苗や土壌があっても、水が安定しなければ栽培は成り立ちません。
この記事では、どの作物にも共通する“水の設計”の考え方を、
自治体・農研機構などの公的資料をもとに解説します。
また、最後にinahoによる伴走型支援(設計・導入・運用サポート)も紹介します。
水はすべての栽培の“基礎インフラ”
作物の約9割は水分でできています。
そのため、「どのくらいの水を、いつ、どのように与えるか」が収量・品質・コストの大部分を左右します。
作物の種類によって必要水量は異なりますが、
共通して言えるのは次の3点です。
- 気温と日射が高い時期ほど多くの水を使う
- 地温と湿度を安定させることが生育・品質を決める
- 潅水量の過不足は根の呼吸と肥料吸収に直結する
💬 たとえば:
- トマト・イチゴ:1日あたり10〜20mmの潅水(温室環境下)
- ネギ・レタス:1回20〜30mmを週2〜3回
- 水稲:1反あたり1日20〜25mm
(出典:農研機構「作物別水管理指針」・各県栽培基準)
つまり「必要水量の見える化」と「安定供給の仕組みづくり」が、
どの作物でも避けて通れない第一歩です。
🌱 必要な水量をどう計算するか(改訂版)
作物が必要とする水の量は、
1㎡あたりの潅水深(mm)×圃場面積(㎡) で求められます。
例:露地10a(1,000㎡)の畑で1回20mm潅水する場合
→ 20mm × 1,000㎡ = 20,000L(20トン)/回
晴天期に週2回潅水するなら、
→ 20トン × 2回 = 40トン/週(=約5.7トン/日)
これはトマト・アスパラ・レタスなどに共通する中間的な目安ですが、
実際には 作物の生育段階によって必要な水量が大きく変化 します。
📘 出典:農研機構『野菜作水管理技術指針』(2019)
長野県『高畝栽培マニュアル』(2021)
香川県『野菜マニュアル』(2024)
🌾 生育ステージと根系の発達を考慮する
作物体の大きさや根の広がりに応じて、吸水量は変化します。
特に 一年生作物(トマト・ネギ・レタスなど)は、
定植直後と収穫期とで根系も地上部も大きく変化するため、
初期は少量・高頻度の潅水、成長後は深く十分な潅水が求められます。
一方で、アスパラガスや果樹などの多年生作物 では、
根系が毎年維持されるため、年間を通じて大きな変動は少なく、
根圏の保湿や塩分・肥料濃度の安定がより重要になります。
👉 つまり、「1回あたりの水量」だけでなく、
「生育段階ごとの根の広がり」と「吸水速度」を見込んだ
時期別の潅水設計 が実際の水管理では欠かせません。
作物別の水量目安(10aあたり)
| 作物 | 潅水目安量 | 潅水頻度 | 備考 |
| トマト(施設) | 8〜15トン/日 | 自動潅水・点滴制御 | 日射比例型が主流 |
| イチゴ | 4〜8トン/日 | 1〜2回/日 | 培地の保水性が重要 |
| アスパラガス | 8〜12トン/日 | 1〜2回/日 | 多年生のため根圏保湿が必要 |
| ネギ・レタス | 4〜10トン/週 | 2〜3回/週 | 乾燥期は倍量に |
| ブロッコリー | 3〜6トン/週 | 2回/週 | 定植後・結球期中心 |
| ミカン・果樹類 | 2〜5トン/週 | 週1回 | 地下水位に依存 |
※出典:農研機構・長崎県・高知県・香川県 各栽培指針より整理
水源の確保方法と特徴
| 水源 | メリット | 注意点・課題 |
| 井戸水(地下水) | 年間を通して安定/水質が一定 | 掘削・ポンプ費用30〜200万円、電源必要 |
| 河川・用水路 | コストが低い/流量豊富 | 水質変動、取水権の確認が必要 |
| 雨水貯留タンク | 環境配慮・補助金対象 | 降雨に依存、貯水限界あり |
| 上水道 | 清潔で手軽 | 単価が高く、営農規模では非現実的 |
💡 実務メモ
「井戸+貯水タンク+潅水」が、施設園芸・露地ともに標準構成。
潅水方式と設計の考え方
| 栽培方式 | 主な潅水方法 | 特徴・留意点 |
| 露地(一般畑) | スプリンクラー | 一度に広範囲を潤せるが蒸発ロス大 |
| 高畝・畝栽培 | マルチ下点滴潅水 | 根圏を潤し病害リスクを低減(高畝推奨) |
| 施設(ハウス) | 自動潅水+施肥制御 | 水分量を日射・温度で自動管理可能 |
| 果樹・茶園 | マイクロスプリンクラー | 局所灌水で省エネ運用が可能 |
📚 出典:JA全農長野『被覆資材・潅水技術指針』(2021)
農研機構『潅水技術体系報告』(2019)
水管理で失敗しないためのチェックリスト
✅ 1. 1日あたりの水量試算(10aあたり5〜10トンを目安)
✅ 2. 水質検査(鉄・硬度・pH・塩分)
✅ 3. 取水権・許可の確認(河川・用水利用時)
✅ 4. ポンプ・タンク・チューブ設計(電源容量も確認)
✅ 5. 自動制御やタイマー設置(潅水ロスを防ぐ)
✅ 6. 将来的な拡張を見越した配管設計
inahoの「伴走型支援」でできること
inahoでは、単なる機器提供ではなく、
現場の課題を一緒に整理し、計画・設計から導入・運用まで伴走する支援を行っています。
たとえば:
- 圃場レイアウトに合わせた潅水・電源・通信設計
- 井戸や貯水設備の設置業者連携・補助金対応
- センサー・カメラによる水分モニタリングと省力化
💬 つまり:
「どれだけの水を」「どのように確保し」「どう管理するか」を
inahoがともに設計・運用まで支援する“伴走型パートナー”としてサポートします。
📩 ご相談はこちらから
→ inahoお問い合わせフォーム
(「潅水設計について」とご記入いただくとスムーズです)
まとめ
- 農業の成功は「水の設計」がカギとなる
- どの作物でも10aあたり1日5〜10トンの水量確保が基本
- 最近は高温地域が多い(気候変動)ので、必要水分量が多くなる傾向
- 水源・潅水・電源をセットで考えるのが効率的
- inahoは「伴走型支援」で計画から現場導入までをサポート
- 公的資料に基づいた数値で設計すればリスクを最小化
参考文献
- 農研機構『野菜作水管理技術指針』(2019)
- 長野県『アスパラガス枠板式高畝栽培マニュアル』(2021)
- 長野県『アスパラガス収量性向上マニュアル』(2021)
- 香川県『野菜マニュアル』(2024)
- 長崎県『令和5年度アスパラガス栽培基準』(2024)
- JA全農長野『被覆資材・潅水技術指針』(2021)
- 農林水産省(2025). 『農業技術の基本指針 令和7年6月』.
- 農林水産省・農林水産研究技術会議(2024). 『農林水産研究イノベーション戦略2024概要』.

